怖いけど悲しくて、また謎解きも少しある。
「私のサイクロプス」
作者 山白朝子
さて、今回は私の好きな作家の本です。この人の作品は怪異物が多いのですが、読後になんとも言えない静けさがあります。
覆面作家としてデビューしてますが、最近、某有名な切なさの達人の作家さんだとわかりました。
とはいえファンの間ではずっと前から噂にはなってまして、読んでみると確かにホラーを書いていた頃のような印象の作品が多いです。
この作品の主人公は和泉蠟庵という、旅本作家。旅の本を書くために諸国を歩くのですが、生来の迷い癖があり、いつも目的地にちゃんと着かないという事です。
そして、そのような迷って行った先にある怪異に出会ってという、連作短編集です。
ただ、話の語り手は一緒に旅をしている版元の親戚の輪という女性と荷物持ちだけど、酒と賭博が好きなどうしようもないダメ人間の耳彦という人です。
お話は主に耳彦が語り手兼当事者として、出てきます。輪の話は最初の1つだけ。どれも背中が寒くなるような話ですが、最後まで読むとなんとなく、怖さはなくて、人間のいろんな悲しさが見えるお話が多いです。
その意味ではホラーというよりは奇談と言うべきかもしれません。
表題作と次のハユタラスの翡翠は良くある昔話を主体としたお話で、終わりもなんとなく想像がつきましたが、後はオリジナルが多かったですね。
特に最後の書き下ろしの星と熊の悲劇は最後の飾るにふさわしいお話。
怖いというよりはなぜか切ない感情が最後に残りました。
このシリーズ、続けて欲しいですね。
(2016/9/2読了)