理系というより論理的思考を楽しめる面白い小説。
「5まで数える」
作者 松崎有理
図書館で新着図書で見かけて、帯の「新感覚の理系ホラー」で惹かれて借りて見ました。
結果はこれは、当たり。理系というか、理屈好きには中々に楽しい話でした。
中には中編からショートショートぐらいのまで6編入ってます。この中でホラーだなと思うのはまあ「砂漠」ぐらいでしょうか。あとはそこまで怖いとは思わなかったです。
(薄ら寒いというのはいくつかありましたが。)
各短編はこんな感じです。
「たとえわれ命死すとも」
動物実験が禁止された世界で、自分の体で実験をする医学者たちの話。まだ、電子顕微鏡がないので、百年くらい前の趣きです。
で、そこに感染症に対抗するためにワクチンを作る話だけど、まあ、人がよく死にます。確かに効いてなかったら病気になるのですから、こんなことしてたらすぐに人材も枯渇しそうなものなのに。そして、主人公は画期的な抜け道でワクチンを開発するのですが・・・というお話。何やら動物愛護の方向が行き過ぎるとこうなるのかと、本当に怖いなと思いました。
「やつはアル・クシガイだ」
こちらは疑似科学を退治する三人組のお話。設定は突飛なんですが、論破のところは本当に面白くて読んでてスッキリします。疑似科学のいかがわしさと信者の頑固さは本当にすごい。でも人の心って難しいよねというお話。あ、一応世界の破滅まで行くので、後半はバカSF的なテイストです。
「バスターズライジング」
こちらはその疑似科学バスターズの結成のお話。奇術の種明かしのあたりは面白いがまあ、いまひとつです。
「砂漠」
これは唯一?のホラー作品。とは言えオチはありきたりなので、途中でネタはわかってしまいました。
「5まで数える」
個人的に一番のオススメ。数を数えることのできない子供が変わった数学のおじさんに出会って、そのハンディを認めて行く話。
このおじさん(ヨレヨレの服で、ポールという人、ってだけで数学好きな人には誰だかわかりますが)との話が面白い。数学って計算するための道具ではなくて、世界を理解するための言語なんだなと再認識。
「超耐水性日焼け止め開発の顛末」
最後の作品はショートショート。細かい理屈は抜きにして、ネタとオチだけで勝負してます。
星新一みたいなさらっとした語りで純粋に楽しかったと思わせます。
総じて割とよかったです。また、こんな本出してたら読もうかな。
追記:作者HP見たら、刊行記念に特設ページがありました。試し読みも出来るみたいです。
http://www.webchikuma.jp/articles/-/656
(2017/07/13読了)